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    『殺意(ストリップショウ)

    作:三好十郎

    演出:河井朗

     

    2023年7月28日(金)〜7月30日(日)

    会場:北千住BUoY 地下スペース

    初演:2023年5月15日

     

    公演概要    チケット

  • 『殺意(ストリップショウ)』

    再々演対談企画

     

     

    徳永京子

    演劇ジャーナリスト。東京芸術劇場企画運営委員。せんがわ劇場演劇事業外部アドバイザー。読売演劇大賞選考委員。ローソンチケットのサイト『演劇最強論-ing』企画・監修・執筆。朝日新聞首都圏版に劇評執筆。著書に『我らに光を──さいたまゴールド・シアター 蜷川幸雄と高齢者俳優41人の挑戦』、『演劇最強論』(藤原ちからと共著)、『「演劇の街」をつくった男──本多一夫と下北沢』。
    twitter:@k_tokunaga

     

    河井朗

    ルサンチカ主宰・演出家

     

    蒼乃まを

    青年団所属。初演ではドラマトゥルク・衣装などを担当。再々演では出演。

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    何故『殺意(ストリップショウ)』なのか

     

    徳永: 私が観に行こうと思ったのは、題材が『殺意(ストリップショウ)』ということが一番の興味だったんですね。で、もちろん、何故それをルサンチカさんが、というのもあって。

     

    河井: 僕は劇作家じゃないから、これまでずっと既成戯曲やってたんですよね。『春のめざめ』(F・ヴェデキント)、寺山修司の『星の王子さま』、清水邦夫の『楽屋』とか。あ、松本大洋の『メザスヒカリノサキニアルモノ若しくはパラダイス』とか。で、大学卒業して上京したら辺で、戯曲の上演許可、学生じゃないと取るのすごく難しいなあって。

     

    徳永: ああ、現実的問題(笑)。

     

    河井: 上京してすごく思ったのが、既成戯曲の上演をしているカンパニーは杉原邦生さんだったり木ノ下歌舞伎とかで、意外と若手と呼ばれる人でやっているカンパニーいないんだーと思って。

    周りを見たら、みんな自分たちで劇作して、自分たちのカラーをすごく出している。そしたらやりたい既成戯曲、今の自分にはないかもってすごい不安になっちゃって。その悩んでいたくらいの時に、祖母が植物状態になって「理想の死に方」のインタビューやっていこう、ということがここ4年くらい。そしてそれを続けた結果、死に方や争いについてをフィクションとして扱っている創作物を丁寧に上演することが一個必要なんじゃないかなって。

    だから今年は『殺意(ストリップショウ)』と9月に太田省吾さんの『更地』っていうラインナップに。

    僕自身は戦争っていうものにすごくネガティヴな感情を持っているので、そういうテキストを丁寧に上演できたらいいなっていうふうに考えて本作を選びました。

     

    徳永: 次の上演が『更地』という流れも気になっていましたけど、そういう理由なんですね。

     

     

    舞台の上で話すこと

     

    徳永: 『殺意(ストリップショウ)』に興味があった理由のひとつは、あの台詞を俳優さんがどう言うか。以前、青年団の山内健司さんがお話しされていたんですけど、大学で演技を教えるときに、昔の戯曲に当たり前にある「何々だわ」っていう台詞を今の俳優が発話するのがいかに難しいか、女性であっても、生まれてから一度もそんな語尾を使ったことがない人がほとんどなので、そこから考えないといけないと。
    その点でこの戯曲は、時代が70年ぐらい前ということだけでなく、三好十郎の作品の中でも、テキストのひねりが効きまくっているじゃないですか。「何々してくださいまし」って言ったと思ったら、罵倒の言葉が出てきたり、語りかけているようで一人の世界に入って喋っている言葉も明らかにある。これを2023年に生活している女性がどう言うの?って。

     

    蒼乃: ルサンチカは普段、インタビューした言葉をテキストとして貰ってて、時には自分がしゃべった言葉自体も書き起こされる。その時点で言いづらいとすごく思うんですよね、自分の言葉なのに。結局「してくださいまし?」っていう語尾が持ってる言いづらさと、そんなに変わらないなっていう感覚がありました。

     

    徳永: えーそれは、面白い!

     

    蒼乃: 知ってるけど言えない」と、「知らないから言えない」っていう差はもちろんあれど、自分の言葉だろうと何だろうと、書かれたものを読むっていうところの難易度は一緒なんだなって思ったので。

     

    河井: 想像するのが難しいだろうなと思って、みんなで実際のストリップを観にいきました。

     

    蒼乃: 渋谷と浅草とか。テキストでは想定されてない喋り方が文化として生まれているんです。

     

    徳永: え、それはどういう?

     

    蒼乃: お客さんが誰であるかってことを露骨に意識して媚びていく。お客さんの期待に応えるための喋り方とか、声の出し方とかが生まれてるので、本来ならそれでやってくべきなのかもとも思うんですけど、そうじゃないしって。

     

    徳永: なるほど。

     

    徳永: ああ、現代のストリップの世界には独自の言語が構築されていて、でも、それで行くのも違うという選択をされたんですね。
    お客さんへの媚びとは少し違いますけど、この戯曲にも、観客が共演者にさせられる仕掛けがあるじゃないですか。いきなり最初から「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」って(緑川美沙の)最後のショウを観た体にされて。しかも、初演の映像を送っていただいて、それを見直して、あ!と思ったのが「これから30分ばかり私の話をします」って始まるんだけど、30分どころじゃ全然ない(笑)。

     

    河井: そうそう100分(笑)。

     

    徳永: 本当に30分のつもりだったけど、話すうちにスパークして乗ってきちゃったのかもしれないし、最初から今日は全部ぶちまけるんだと決めていたのかもしれないけど、いずれにしても彼女のペースなんですよね(笑)。彼女が語ったことはすべて真実ではないと私は思っているんだけれども、その可能性も含めて。

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    2023年からみた三好十郎

     

    徳永: それにしても、『殺意(ストリップショウ)』は三好作品の中でも上演が少ないですよね。政治性が強いのは他の戯曲もそうですけど、これは、女性である主人公が、お兄さんの影響で自分も政治思想を学ぶんだけれども、早いうちからそれに批評性を芽生えさせていて、独特ですよね。

     

    河井: そうそう僕的にはそういったところをちゃんと上演したかったんですけど、ほとんど戦争とか政治的な部分は丸々カットしました。伝わんないしなーと思って。

     

    蒼乃: 最初に戯曲読んだときに、それぞれの単語を全部調べないと、え?で、結局この単語は左翼なの?右翼なの?とかが多すぎて、筋に集中できないと思って(笑)。

     

    徳永: だからといって政治性が無色化されたわけではなくて、本当にそう言う意味でテキレジが適切だったと思う。私は3年前に、栗山民也さん演出、鈴木杏さん出演のバージョンを観ていて、そっちでは戦争がもたらす負の遺産の大きさ、複雑さを感じたんですけど、ルサンチカの『殺意(ストリップショウ)』は、敗戦を機に思想を変えた山田先生が、実に愚かでかわいそうな人だと感じられたのが自分でも驚きでした。たぶん、そう見えたのは渡辺さん演じる美沙が、どこか「自立してた」感じがあったんだと思う。

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    徳永: 「2023年にやるとしたらこうですよね?」というスタンスを受け取ったというか。もともと主人公は時代の流れに押し流されるだけじゃないですけど、彼女が自分の人生を選択するタイミングが原作より早い気がした。

     

    河井: いろいろ文献読みあさってたら、転向についてなどは作中の山田教授のやってることと、実三好十郎がやってたことが、やっぱりほぼ同じなんだと思って。それは自分自身を劇作を通じて批評しているのだけど。結局女性に自分の情けなさを語らせている。

    自分のことを語るために、ストリップショーに当てはめて、女性を消費させて扱うっていう部分が、なんかきついなーと思っちゃって(笑)だからそう思ってもらえたならありがたいです。

     

    徳永: え、私、いいお客さん?(笑)。でも前から、三好十郎って、この時代の男性にしては女性のポテンシャルに意識的だった人という印象があるんですよ。他の作品の女性も、不器用ではあるけれど、全体を見渡す眼差しとか、分析力とか、知性を備えている。美沙さんという人物も、意外と感情的じゃないし。
    日本の戦前戦中戦後の歴史と重ねて女性のひとり芝居を書くときに、いろんなものを背負わせた、ストリップという職業で女性を消費したというより、三好十郎は男性より女性の視線を軸にしたほうが、客観的に語れることを、わかっててやったような気がしていて。
    で、ルサンチカの上演で、それをすごく良い形で見せてもらえたなっていう気がしたんですよね。

     

    河井: あー確かに、時代を考えればそうかもしれないですね。僕は逆に女性に求めすぎだろって思っちゃっていたから(笑)

     

    蒼乃: でも確かに、理想の女性像みたいなことが入ってないですよね。固定概念はあるかもしれないけど、こういう女性が正しいから、そういうふうに向かっていくべきみたいな圧力は含まれてないかもしれないですね。

     

    徳永: 栗山✕鈴木版を観た人にこそ、これを観てほしい。もちろんそのずっと前の上演を観た人にも。どっちが古い、新しい、ということじゃなくて、でも「これは2023年の三好十郎だね」ってやっぱり言うんじゃないかなー。

     

    河井: おおー。

     

    蒼乃: うれしいね(笑)

     

    徳永: 今度のBUoY版は蒼乃さんが美沙役で、私の勝手な想像ですけど、渡辺さんバージョンよりさらにポップ──この単語は指す範囲が広いから簡単に使うのはよくないけど──に、そしてドライになりそうな気がする。原作の芯にあるシリアスさはそのままで。蒼乃さんの演技は、去年のYPAMで急な坂スタジオが企画したひとり芝居のショーケースで拝見しているので、そこのアップデートはすごく楽しみです。

     

    河井:ありがとうございます 。

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    再々演 公演詳細

    『殺意(ストリップショウ)』

     

    日時・会場

    2023年7月28日(金)〜7月30日(日)

    全4回公演 上演時間:約100分

    会場:北千住BUoY

    ・7月28日(金)19:30 

    ・7月29日(土)13:00/18:00

    ・7月30日(日)13:00