市川剛史 氏(ライター)

· SO LONG GOODBYE劇評

 『SO LONG GOODBYE』を観終わったあと、私はドラマトゥルク担当の田中愛美さんがnoteで連載していた記事を読んだ。何故かと言えば、今回上演された作品を観ても、私には何がなんだかよくわからなかったからである。もちろん、解釈の余地はあったし、それを楽しむことはできただろう。なんせ、真空パックされたバナナが吊るされていくわけだから、それだけでも様々なことが想像できる。しかし、そういったこととは別に、魅力のようなものがいまいち伝わってこない。そこで、何か取っ掛かりはないかと読み始めたのが田中さんのnoteだった。

どうして上演されたものを観てもピンとこなかったのか。おそらく、情報量が少なすぎたのだと思う。インタビューによって集められた生の声は、話者の顔が見えないモノローグになっていた。どういう生活の中から生まれた言葉だったのか。言葉の主は、どういう時間を過ごしてきたのか。肯定的な声色で語ったのか。それとも暗い響きを伴っていたのか。ほとんどすべて情報が削ぎ落とされ、抜き出されたテキストだけがそこにあった。それだけではない。何故、こういう形になったのか。どういう思いがあるのか。制作サイドの考えも、私にはまるで伝わってこない。それらを補完するピースとして、田中さんのnoteはあったように思う。 noteをすべて読み終わってから、改めて本作に抱いた感想は「もったいない」だった。『SO LONG GOODBYE』という作品は、舞台上で上演された部分だけでなく、そこに行き着くまでのすべてが作品なのではないか。そう感じた。構成・演出を担当する河井朗さんが何を考えていたのか。俳優の渡辺綾子さんが本番を迎えるまでどう過ごしていたのか。それらを田中さんがどう見ていたのか。ピースが加わったことで、私の中で無機質に感じられていた作品に生々しさが生じていく。

noteを読んでいると、作品ができあがるまでに三人がたどった思考過程や稽古中に過ごしていた年末年始の季節感までもが伝わってくる。北海道へ出稼ぎに行く河井さん。視力の低下を不安がる渡辺さん。真空パック内で発酵するバナナ。それらを独自の見解を添えて綴る田中さん。どれも面白い。作品の向こう側にようやく人間が見えてきた。それなのに、そういった部分が上演作品からは綺麗に取り去られている。上演されたものしか観ていない観客には、この作品の魅力が半分も伝わっていないのではないだろうか。だから、私も最初は戸惑ったし、もったいないと思ったのだ。

U30支援プログラムは来年も行われるという。それならば、是非とも来年は魅力がより多く伝わる形に仕上げられたものを観てみたい。ルサンチカで扱われているテーマや試みは興味深いものだと思う。noteを見る限り、関わっている人たちからも独特な世界観を感じる。あとはそれらをどう作品に落とし込むか、ということなのだろう。一年という期間は、演劇作品を作る上で決して十分な時間ではないのかもしれない。それでも、さらなる試行錯誤を経たものが観られるのだろうと期待が高まる。来年の上演が楽しみだ。